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(非公式・仮訳)
*2005年8月、ロートブラット博士は逝去されました。本原稿は03年にカナダで開催されたISYP(インターナショナル・スチューデント・ヤング・パグウォッシュ)シンポジウムにおけるスピーチです。 このシンポジウムの中心テーマは、イラク政権崩壊後の国連の役割についてです。国連が深い傷を負っていることは疑いありません。しかし、それ以上に辛いのは文明社会における根本的な価値が打撃を受ける結果になっていることです。私は国際問題に取り組む際のモラル、そして国際法の遵守についてお話したいと思います。 新保守主義が台頭して以来、イラク戦争自体はブッシュ政権によって持続的に実施されている侵略的政策のほんの一面に過ぎません。イラク戦争における最も奇妙な出来事は、何も起きなかったということなのです。イラク攻撃の表向きの理由は、アメリカとイギリスの安全を含む全世界の安全保障に対する脅威でした。すなわち、サダム・フセインが所有しているとされた大量破壊兵器の存在です。しかし、広範囲に及ぶ調査にもかかわらず、大量破壊兵器は見つかっていません。今ではもう、それらの兵器は存在しないのだと結論せざるを得ません。この点だけでも、イラクに対する攻撃は国際法に違反するものだったことが分かります。 ところが、この国際法違反はブッシュ政権にとって何の問題もないようです。イラクにおける戦争は、彼らにとって10年前に立案された政策を実行したに過ぎなかったからです。 今日、こうした政策に対するいかなる批判も反米主義の烙印を押されてしまいます。これは、ある程度「敵か味方か、どちらか一方しかない」というブッシュのスローガンの結果です。このスローガンは当初、テロとの戦いに言及するためのものでした。おそらく世界の大多数の人々は、テロリストに抵抗し、テロを撲滅する運動に参加する覚悟があります。しかし同時に、ブッシュの政策を喜ばない人々も大勢います。 私は戦争反対派でした。しかし、専制的な政府の崩壊を喜ばず、軍事的な介入がなければこうした急速な事態の展開がなかったことを認めないのは、私の偽善的な側面でしょう。しかし、私たちがこの戦争のために支払った対価はとてつもなく大きいのです。国際問題において「結果が手段を正当化する」という皮肉な教義が復活してしまいました。これは、本質的に道徳的価値と相容れない考え方です。 軍事力の増強は、ブッシュ政権以前においてすでにアメリカ国内で始められていたのでしょう。1年前、ラ・ホーヤにいた人々はクリントン政権の国防長官を務めていたウィリアム・ペリーの基調講演を覚えているでしょう。彼はアメリカ軍の強大さを自慢げに語ったのでした。たしかに、冷戦終結以来、アメリカ人は桁外れの軍事的潜在力を築き上げてきました。科学技術の最新の成果を利用し、天文学的な規模の予算に支えられて、アメリカは他のどの国より高度で並々ならぬ史上最大の軍事力を持つ国になりました。 ブッシュ政権下で新保守主義が力をつけるにつれ、この軍事的な潜在力は「勝てば官軍」の格言に従って政治上の主義を実行し、正当化するために使われました。「我々には力がある、だから正しい。例えそれが国連の軽視を意味しても」というわけです。彼らにとって国際条約を遵守する決め手はアメリカの利益になるかどうかです。もしならなければ、それらの条約は無視される可能性があるのです。 私たちはジョージ・W・ブッシュが政権を握って以来、この政策が何度も実行されるのを見てきました。例えばABM(弾道弾迎撃ミサイル制限条約)からの脱退、ミサイル防衛構想の開始、CTBT(包括的核実験禁止条約)の批准拒否、生物兵器禁止条約における検証議定書交渉の拒否、気候変動枠組条約における京都議定書からの離脱、国際刑事裁判所への抵抗などです。 こうしたパックス・アメリカーナ(アメリカによる平和)の事例に、私たちはイラクの将来に関する決定を加えなければなりません。すなわち石油業界の割り当てに関する有利な契約のように、戦争の戦利品を要求する際には勝者が正当化されるという古い慣例への回帰です。 とりわけ、ブッシュの指図に従わないことで打撃を受けているのは国連です。ブッシュ政権は、どんな結論にも達することができない無能で弱腰の組織と見なされている国連に対し、侮蔑の念を示すのをためらいませんでした。 長時間の討議と長引く交渉は、民主的な組織に固有の特徴です。国連は、数多くの国々の野望を平和的な手段で調整しなければならないのです。同時に、いくつかの批判は妥当であり、国連がその義務を果たすためにより実効的な組織にすることが重要です。加盟国の主権に基づいた現在の国連憲章は、人生の歩みにおいてますます相互依存が進んでいる国際化の現代にあって、もはや耐え切れなくなっています。 国内問題への干渉、例えば専制的な政権に対する軍事的行動は、国連安全保障理事会の決議の下で行われることを条件に合法化されるべきです。ブッシュ政権は民主主義のチャンピオンであることを公言しながら、実際には「言うとおりにしろ、さもないと…」と独裁的な手段で自らの政策を共用しています。これは「民主主義」という言葉の胸が悪くなるような悪用に他なりません。しかし私は、民衆の実際の思いはどうであれ、多くの国々が実際的な政策の採用に感謝し、現代における唯一の超大国を認め、アメリカを世界の警察として受け入れているのではないかと危惧しています。 こうした事態が起きるのは恐ろしいですが、まだ既成事実ではありません。私たちはこの危惧が実現するのを防ぐため全力を尽くさなければなりません。私の一番の希望は、アメリカ国内から反対の声が起きることです。どういうわけか、私にはアメリカ人が政権を乗っ取った徒党から与えられた役割を久しく受け入れているようには見えません。現在の政策に危険が潜んでいることが明らかになったなら、世論がそれを転換させなければなりません。とりわけブッシュ政権によって公布された核政策に関連して、この危険が明白になるでしょう。 約1年前、私はラ・ホーヤでの会議の席上、この危険の概要について発表しました。以来、先制攻撃に関する新しい政策によって状況はさらに悪化。核政策全体が根本的に変更されてしまいました。一般の人々、そしておそらくこのシンポジウムに参加している人々の何人かでさえ、この変化の重大さを正しく認識していないようです。 冷戦中および冷戦終結後の10年間において、アメリカと大部分の核保有国の政策は核抑止論に基づいていました。核兵器の実際の使用は、すべての手段が失敗した時の最後の手段と考えられていたのです。 防御的な政策から攻撃的な政策への転換こそ、ブッシュ政権が行ったことです。そこには通常の戦争計画に核兵器使用の可能性を盛り込んだ戦略が規定されています。核兵器は軍事戦略の標準的な要素になりました。他の高性能爆薬と同じように、戦闘で使われるでしょう。これは、核兵器論全体に大転換が起きたことを意味しています。 この政策はすでに実施されており、新型核弾頭「地中貫通型核兵器」の開発について何の隠し立てもなく協議されています。新型核弾頭の目的は、コンクリートの壁で覆われた掩蔽壕(えんぺいごう)を破壊することです。なぜならそこに大量破壊兵器が貯蔵されるかもしれず、あるいは、ならず者国家の指導者の避難所になるかもしれないからです。 軍の指導者たちに新しい核弾頭の能力について確信を持たせるためには、実験をしなければならないでしょう。現在、私たちにはCTBTがあり、アメリカも批准はしていませんが署名しています。しかし、ワシントンではすでにCTBTからの脱退が協議されているのです。 アメリカがもし実験を再開するなら、他の核保有国が同じように実験を再開するきっかけになってしまうでしょう。主に中国だと思いますが、インドとパキスタンも誘惑にかられるでしょう。新型核兵器開発競争の危機は、現実に存在するのです。 状況は、昨年(2002年)12月にブッシュ政権が発表した大量破壊兵器に関する国家安全保障戦略の下で一層危険なものになっています。「我々に反対するものの敵対行為に対し機先を制し、または先手を打ち…アメリカは必要とあらば先制して攻撃する」。アメリカは敵国に対し、実際に核兵器による先制攻撃を行うかもしれません。 この状況はまったく奇怪です。先月開催されたエヴィアン・サミットにおけるG8声明は、核兵器を「国際安全保障に対する最大の脅威」としています。ところが、アメリカは核兵器を使用する必要があると感じた場合はいつでも核兵器を使う権利があると勝手に決めています。他の国家が追随するまでにどれほどの猶予があるでしょうか。偶発的に核戦争が起きる危険は極めて高くなっています。 この危機を回避するために何ができるでしょうか。特に、ヤング・パグウォッシュは大惨事の防止にどのように貢献できるでしょうか。 まず、私たちは原点に戻らなければならないように思います。現代社会の形成にかかわる基本原則を守る必要性を民衆に気付かせねばなりません。科学技術の発達のおかげで、もはや私たちは生き残るために本能に突き動かされた行動をとる必要はなくなっています。また、科学の応用のおかげで私たちは正義、慣用、公平、思いやり、忍耐、平和を断じて守ると言う人道的原則によって教え導かれることができます。 こうした立場を取ると、あなたは非難されるでしょう。まず、身近な存在であるママやアップルパイを再確認するかのように、これらの人道的原則は自明の理だと言われるでしょう。人々と国々の関係がしばしば寛容でなく嫉妬、思いやりでなく貪欲、公平でなく抑圧、忍耐でなく暴力に基づいているにも関わらず、です。 そして同時に、あなたは反対のことを聞かされるでしょう。すなわち、人道的原則のために戦うのは無益だと。あなたは愚直であり、現実を踏まえていないと非難されるでしょう。紛争や戦争は常に存在してきたのであり、私たちは侵略するよう生物学的にプログラムされているのだとさえ言われるでしょう。 悲しいことに、あなたはこうした物の見方をするのがタカ派だけではないことに気が付くでしょう。人道的原則のために半世紀近く戦い続けているパグウォッシュ会議のベテラン科学者でさえ挫折感を感じており、(ある程度まで)熱意が薄らいでいます。 一般の人々は、これら人道的原則が核兵器との関係において侵害されていることに気が付いていません。本当の状況について知らされておらず、危険に関する情報が不足しているからです。あなたはこの点について何らかの行動を起こすことができます。 自身が事情により詳しくなることによって、課題について公表されている資料を読むことによって、あなたはスタートを切ることができます。国別のヤング・パグウォッシュ・グループ内で、活動を共有するよう取り決めることもできます。例えばインターネット上の資料動向を把握する作業を個々のメンバーに割り当てたり、資料を読んで他のメンバーに収集した情報を伝えることもできます。 あなた自身が知識を習得すれば、あなたの大学の学生に知識を伝えられるだけでなく、一般の人々に講義をしたり、報道機関に記事を書いたり、テレビに出演したり等々も可能になります。人民の名において行われている政策の不道徳性や国際的な義務に違反していることについて民衆を教育するプロセスは、最初はとてもゆっくりと進み、時にもどかしい思いもするでしょうが、忍耐をもってすれば必ず幅を広げ、実を結ぶと私は確信しています。 「核問題に対する民衆意識」という名称の下で行われるこのプロジェクトは、ISYPナショナルグループが互いに協力することで運営できるかもしれません。 さらに、ナショナルグループあるいはグループ内の個人は、より専門的なプロジェクトを実施することもできます。例えば、宇宙空間の攻撃的軍事利用の問題です。この話題についてはウィル・マーシャルがここで講演するでしょう。私はこの問題が、ヤング・パグウォッシュが行う、さらに言えばベテランのパグウォッシュ会議メンバーが行う優れた事例研究になると感じているとだけ言っておきましょう。 講演の中で暗示したように、現在の国連組織は平和の維持・推進にとっていくぶん無力な道具と化しており、それを改善するための方策は研究する価値のある課題です。 法律面に関心がある団体や個人にとっては、核問題におけるアメリカの政策、特にNPT(核不拡散条約)に矛盾する政策について、アメリカ政府あるいはブッシュ大統領自身を国際法廷に告発する根拠について研究する余地があります。いくつかの組織に加えて何人かの個人がこうした告発を主張しており、お互いに資料をまとめたり、現段階での実現可能性について研究するのに有益でしょう。 アジア諸国のヤング・パグウォッシュ・グループにとって、その地域の危険に満ちた状況に目を向けるのは当然のことです。とりわけ関心の的になるのは日本における軍国主義の高まりであり、いかなる軍事活動も許さない現在の憲法を変えようとの運動が盛り上がっていることです。私のすぐ後にパルヴェーズ・フッドボーイが講演しますが、彼がこの問題について取り上げてくれることを希望します。 要約すると、私はISYPによる研究のために5つの項目を指摘しました。すなわち、 1:核の脅威に対する民衆の意識 2:宇宙空間の攻撃的軍事利用 3:国連の刷新 4:アメリカのNPT違反に対する法的措置 5:東アジアにおける核問題 他のプロジェクトのためのアイデアは、このシンポジウムのディスカッションから浮かび上がってくるかもしれません。プロジェクトは、独学から情報の普及、独自の研究まで異なる目的を持つかもしれません。それは個人とナショナルグループを巻き込み、グループ間の協働を必要とするかもしれません。ただ、私はプロジェクトが主に核問題分野で行われることを願ってやみません。なぜなら、核問題こそパグウォッシュ会議の歴史を通じて最重要の課題であり、明らかに現在でもそうあり続けるべきものだからです。もっとも、他のタイプの武器や戦争そのものの廃絶について、あなた方の何人かがすでに行っている科学者の社会的・倫理的責任についてなど、間接的に核問題につながる課題を排除すべきではありません。 とりわけ強調したいのは「関わっていく」ということです。あなたはほんの少しの間なら、仕事から離れて自分の時間を過ごすことができます。その時間を組織に関する問題ではなく、もっと実際的な課題に費やすべきです。年配の人より将来に関してより多くの悩みを抱えている青年は、その仕事を年配に任せておくのではなく、自分たちで平和な世界を確保する使命を果たすべきです。それが、当然かつ重要なことなのです。
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