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行動こそ平和の鍵
オスカル・アリアス・サンチェス氏
コスタリカ共和国元大統領/ノーベル平和賞受賞者

はじめに

Peace Proposal.comから、日本と世界の青年に対するアドバイスを求められました。とりわけ、青年はどうすれば平和を推進できるかという点について私の提案を尋ねられました。21歳未満の若者に対する私のアドバイスは一言に要約できます。すなわち、「Move(行動せよ)」です。

長らく、幅広い学問分野における偉大な思想家たちは運動こそ宇宙の鍵だとしてきました。イタリアの神学者であるトマス・アクィナスは、行動は生気のない人生と活気あふれる人生を区別する基本原則の一つだと考えました。科学者たちは、原子と分子の運動が「振動する弦」でできている宇宙を加熱していると説明しています。経済学者たちは貨幣の動きがなければ経済が停滞すると指摘し、医師らは血液の流れがなければ私たちの体は機能しないと語り、サッカーのコーチはたくさん動き回ることで得点の機会が生まれることをストライカーたちに指導します。

私はこうした明白な例にもまして、「行動はまた平和の鍵である」と付け加えたいのです。平和は単に平静、平穏、安定の同義語であるとの大きな誤解がありますが、決してそうではありません。平和とは行動することです。

口を動かすことによってのみ、対話を成し遂げることができます。頭を働かせることによってのみ、平和が戦争に勝ることを証明できます。不断の知的努力を通してのみ、平和を達成するのに必要な手段を見つけることができます。そして政治的な活動を通してのみ、現状に満足してしまう獣性を打ち破り、真の向上を達成できるのです。

あなた方一人ひとりは、少なくとも3つの異なる次元で平和のために行動できます。

1:体を動かす
平和は他者への知識と理解なしに進めることはできません。ですから、できる限り遠くへ旅行したり、数多くの異なる文化との出会いを経験してください。しかし、家の近くを旅することさえ役立つ場合があります。あなたが普段あまりよく見ない数ブロックを散歩してごらんなさい。あるいは隣町を訪ねてごらんなさい。あなたが近所の人々や彼らが住む地域をよく知るほど、彼らへの恐れや不安は消えていくでしょう。そして、改革する必要がある事柄により一層直面するようになるでしょう。こうして体を動かすだけでも、多少の知識や見識、物の見方の変化がもたらされるのです。

2:頭を使う
平和の探求において、働かない精神は怠惰な旅行者と言わざるをえません。ノーベル賞を受賞した作家エリー・ウィーゼルは、「愛の反対語は憎しみではなく無関心である」と言いました。現状に満足してしまうことは、私たちの精神にとって後退を意味します。前進し、変化をもたらすために、私たちは新しい情報を求め、成長を続けなければなりません。また、精神的な平和運動の最もいい方法の一つは外国語を学ぶことです。長期にわたり継続して学び続ける必要がありますが、努力する価値は大いにあります。

また、知的な活動は、あなた自身の物の見方への挑戦でもあります。もし、あなたが週末になって週明けとまったく同じ考え方のままであれば、それはよく学ばなかったということです。例えあなたの意見が完全に逆転しないとしても、課題は常に目に見える以上に複雑です。その複雑さを発見することが教育の本質です。平和と教育が手を携えて進んでいけるように、あなた自身をできるだけよく教育してください。

3:政治的に活動する
快適な生活に恵まれた人々は、この地球上に住む多くの人々が耐え忍んでいる途方もない苦労を無視したい誘惑にかられます。週末は何もせず、ただ座っていたり、買い物をしたいという気持ちになります。そして、1週間の7日間を現状のまま受け入れています。

こうした誘惑は私たちの内面から出てくるものではありません。既存の体制がまず初めにやることは、他に道がないことをあなたに信じ込ませることです。あなたの政府や他の機関は、地球上の10億人が清潔な水を手にできていないという疑いに対し、出来ることは何もないのだとあなたに吹き込むかもしれません。26億人が十分な衛生設備を持てずにいるのに出来ることは何もない、マラリアによって年間100万人以上が死んでいるのに出来ることは何もない、世界で年間1兆ドルを超える軍事費が浪費されている一方で、私がいま指摘したような人々を救うために使われている金額はほんのわずかでしかないのに、多くの人々は出来ることは何もないのだと信じ込ませようとするでしょう。

私は同意できません。あなたもそうだろうと思います。ひとたび問題に直面し、その課題について深く思索したなら、あなたが求める変化を実現するために政治を動かす時です。政治改革を推し進めるグループが「movements(活動団体)」と呼ばれ、変革を求める人々が「agitators(活動家)」と呼ばれるのは偶然ではありません。こうした活動や人物で最も成功を収められるのは、どんなことでも変えることができるのを知っている人たちです。どんなことでもです。人間が作り出したものであれば、人間はそれを変えることができるのです。もし、あなたが挑戦する前に問題の解決をあきらめてしまったら、変革が難しく見えるものには何でも妥協するようになってしまいます。

私は困難な目的の達成に生涯を捧げてきました。資源を軍事的な目的に浪費するより学校に投資すること、暴力によって紛争を拡大するより交渉によって争いを解決すること、選挙の邪魔を許すより選挙によって立ち上がる指導者が必要なことを、諸国に悟らせる努力を続けてきました。

1986年に私がコスタリカ共和国の大統領に就任した時、中米諸国の多くが内戦に巻き込まれていました。地域には大きな絶望感が漂い、市民も指導者も一様に平和の達成は不可能だと感じていました。しかし、1987年8月、中米5カ国の大統領がグアテマラ共和国のエスキプラスで会談し、暴力以外に紛争を解決する方法はないのか話し合いました。

はじめ議論は白熱しましたが、最終的に私たちは合意に達することができました。平和を勝ち取ったもの、それは行動でした。私たちは合意点が見つかるまで共に交渉を続けました。私は平和と民主主義は可能であるばかりでなく、絶対に必要だと強くたゆみなく主張し続けました。その結果、交渉を継続することができたのです。平和と民主主義は誰人も手を引くべきでない本質的な価値です。私が1987年にノーベル平和賞を受賞したのは、行動と問題の解決を実際に結びつけることができたからでした。

これはもう20年も前の出来事ですが、中米に関する私の希望のすべてが満たされたわけではありません。私はまだあきらめていないのです。まず、非武装化をあきらめることを拒否します。平和と繁栄に至る確実なステップはありませんが、軍事目的の支出ほど平和と繁栄からかけ離れる確実な方法はないからです。また、紛争を解決する最高の方法である対話をあきらめることを拒否します。民主主義以上に良い政治システムがあると信じることも拒否します。そして道徳的・経済的に実現可能な政策として、発展途上国のために債務の免除を求めるのをやめることを拒否します。政治的な活動は、はじめ完全な失敗のように見えても、あるいは大成功を収めたと思っても、やめるべきではありません。それは、その人の全人生をかけて最後までやり通すべき責務なのです。

インターネットについて

インターネットは間違いなく、年齢、人種、性別、地理的な条件に関係なく行動を起こすまたとない機会を提供しています。頭を使って活動することは、オンラインの新聞やブログを読むのと同じくらい簡単なことです。これまで、共通の目的のために働く同志を組織することは容易ではありませんでした。ところが注目すべき一例を挙げると、アメリカ人のジョディ・ウィリアムズはメールやインスタント・メッセージを使い、整理された書類と日程をオンラインで共有することで、地雷を禁止する国際キャンペーンを先導しています。彼女はこの努力によってノーベル平和賞を受賞しました。

同時に、インターネットは行動を起こさない絶好の機会も提供します。果たして私たちの何人が、退屈でつまらないクリックの繰り返しにはまり込んでいると気が付いているでしょうか。お気に入りのホームページをチェックし、メールを確認し、ニュースや天気を調べ、サブのメールまで見て、再度お気に入りのホームページをチェックする。この作業の間ずっと、あなたは自分が生産的だったなどと考えられるでしょうか。

このサイクルに気付いていることは、はまり込みを打ち破る第一歩です。その力をあなたは持っているのです。どうぞ、マウスを動かし続けてください。ただし、それは人々に行動を促すために動かすべきものであることを常に心に留めておいてください。

インターネットを使って行動を起こす簡単な方法は、オンライン署名です。私もオンライン署名を活用しています。他の大勢のノーベル賞受賞者や世界各国の政府と共に、私は包括的な法的拘束力のある武器貿易条約(ATT)を支援しています。ATTは残虐行為や大量虐殺、人道に対する罪に使われる武器の移転を禁じるものです。人権や人道法を侵害する武器の移転を禁じ、持続可能な発展を妨げるために使われる明白な兆候がある場合も武器の移転を禁じるものです。

ATTのオンライン署名は、www.armstradetreaty.com で行えます。内容を読んで署名を検討してくれることを期待しています。また、例えあなたがATTをどう思おうと、あなた自身でオンライン署名ができるサイトを開設し、人々の関心を集めてくれればと思います。署名はそれほど重要なものなのです。民衆が自発的に行動を起こしている姿ほど、政治家を行動に駆り立てるものはないからです。

結論

では、あなたはどんな課題に身を投じるべきでしょうか。世界には変革を必要とする問題が数多くあります。人々は貧困から目をそらしています。ビジネス活動は社会の負担になるコストを省みずに金銭的な利益を追求し、政府は民衆の金を建設計画ではなく破壊の手段につぎ込んでいます。

日本においては、軍国主義が容易ならざる脅威として再び姿を現しています。正式に軍を認めるために日本国憲法を改正せよという最近の議論は、平和な60年間に対する悲劇的な裏切りです。貧しい国々を援助するための予算が大幅に削減される一方で、自衛隊につぎ込まれる金額は4倍以上になっています。憲法はむしろ、軍事目的の支出に対し制限的なものにすべきです。

日本の青年は絶対に反対しなければいけません。新聞や雑誌の編集者に手紙を書き、オンライン署名ができるサイトを開設し、平和を求めるデモを組織し、軍国主義に反対する候補者に投票することです。ぐずぐずしている時間はありません(この件に関するもっと詳しい情報は、2005年12月7日付の朝日新聞、同18日付の朝日インターナショナル・ヘラルド・トリビューンに掲載された私のコラムを参照してください)。

行動するのは難しく聞こえますが、あなたに2つのいい知らせがあります。まず、行動は周囲に拡大しやすいということです。これは、分子同士がぶつかり合う現象に似ています。すべての核分裂反応が、たった1つの中性子が原子核に衝突して状態を変化させることから起きるのと同じことです。実例を挙げると、コスタリカはあえて常備軍を廃止しました。1949年のことです。それが、最近になってコスタリカをモデルにパナマとハイチも常備軍を廃止しました。行動を起こすことを第一の目的にすることです。そして、あなたの本質に内在している道徳的倫理に、あなた自身をあなた自身の道へ案内させることです。あなたが一人で行動する期間はそう長くないでしょう。

さらにいい知らせは、地域社会への奉仕は面白い!ということです。これはよく守られている秘密ですが、実際、誰かを手助けするプロジェクトを始めたり参加したりすることは楽しいものです。深い達成感という意味だけではありません。日常レベルで楽しめるものです。あなた自身のために挑戦してみてください。そうすれば、私の言いたいことが分かるでしょう。

大人にしか解決できない問題、中高年にしかつくれない組織、年配者しか先頭に立てない運動などありません。自分自身を過小評価してはいけません。あなたは政策を良い方向へ動かすことができます。問題について調べることは行動することです。あなたが何を割かなければならないにせよ、自分の時間や仕事を提供することは行動することです。

では、行動を開始しましょう。あなたやあなたと共に行動する世界中の青年が目的を達成し、活動を終えるのを楽しみにしていますと私が言うとき、それは私と同世代のすべての人の思いを代弁していると私は思っています。