06/12/27


アナン事務総長
「文明の協調(同盟)」に関する報告書を提出




「文明の協調」に関する報告書
国連のアナン事務総長は今月18日、国連総会に対し「文明の協調(同盟)(Alliance of Civilizations)に関するハイレベルグループ」がまとめた報告書を提出、登壇して演説し、文化間における一層の相互理解を求めた。

演説でアナン事務総長は、「私たちは互いのことを学ぶよう努め、互いの相違の源が何であるかを理解し、互いの信仰や伝統において最上のものを発見することにもっと積極的な努力をすべき」と強調。「こうした作業によってのみ、私たちは疑いと偏見を乗り越え、過去の傷を癒し、互いに前へ進めるようになる」と訴えた。

「文明の協調」イニシアチブは、第59回国連総会でスペインのサパテロ首相が提唱し、トルコのエルドアン首相が後援。西洋世界とアラブ・イスラム世界の「文明の衝突」が現実になった場合の危険について警鐘を鳴らすとともに、衝突を回避するための方策を提示し、各国政府や指導者に適切な対策を講じるよう促すことを目的としている。

報告書は元ユネスコ長官のメイヤー教授、前イラン大統領のハタミ氏、ノーベル平和賞受賞者のデズモンド・ツツ大司教ら20人からなるハイレベルグループが作成。主に西欧世界とムスリム世界の衝突の原因を分析し、教育・青年・移民・メディアといった分野について歴史的・社会的な障壁を乗り越える方策を提案している。

アナン事務総長は「問題に対して行動を起こさなければ、どんなに洞察に満ちた報告書を出しても、素晴らしいアイデアを賞賛しても、十分でないことを私たちは経験から学んでいる」と指摘。報告書の内容を現実のものにしていくためには、特定の社会や国家の繁栄のためではなく、人類文明全体のために協働することが大切と訴えた。また国連総会議長のアル・ハリファ女史は報告書の提出を歓迎し、「こうした課題の重要性を明らかにし、文明・文化間の対話と寛容を促進するため、2007年夏に国連総会の非公式な対話会合を招集したい」と語った。なお、報告書の全文は「文明の協調」イニチアチブ公式ホームページでダウンロードできる(日本語なし)。


「文明の協調」報告書の概要
20世紀における政治面や科学技術面の進展は、前例のない国家と国際的な幸福を調和させる時代の到来について希望と可能性を抱かせるものだった。しかし、多くの人にとってこの希望は根強い格差、貧困の拡大、恐れや不安の増大によって打ち砕かれてしまった。

グローバル化は多くのコミュニティーにとって、激しい攻撃として経験されてきた。より良い生活への期待は文化の均一化、家族の崩壊、伝統的なライフスタイルへの挑戦、環境劣化など、高い代償をはらむものだった。こうした文脈において根深い差別、屈辱、社会的な疎外に直面していると感じている人びとは、より攻撃的に彼らのアイデンティティーを主張することによって応戦している。西洋社会とムスリム社会の関係において、これほど有力な原動力はない。しかし古代の歴史においても、宗教的な差異が西洋―ムスリム間の緊迫した対立の原因になったことはない。問題の根底には以下に示す政治的な要因がある。


a. ムスリム国家に影響を与える西洋諸国の政策
■イスラエルとパレスチナの紛争は西洋とムスリムの関係に亀裂を生じさせる象徴的な問題になっており、依然として世界の安定にとって緊急を要する脅威の一つである。

■ムスリム諸国における西洋諸国の軍事行動は、恐怖心と世界中に広がる敵意を増大させている。またイラクにおける連鎖的な犠牲やアフガニスタンで継続している紛争は、テロリストグループの増大を助長している。

■さらに国際法の適用や人権の保護に関するダブルスタンダードが広く認知されるようになり、世界中のムスリムは自分たちが攻撃を受けやすい脆弱な立場に置かれていることを感じ、敵意を増大させている。


b. ムスリム社会の動き
■多くのムスリム世界が苦しんでいる現在の窮状は、外国からの干渉のせいばかりとはいえない。イスラム法や伝統の解釈についてと同様、進歩派と保守派の議論はムスリム世界の至るところで一連の社会的・政治的問題として噴出しており、深刻な分断や、時には過激主義や暴力まで導いている。

■多くの場合、自称宗教的な人物は、民衆の欲求を利用してイスラムの教えをねじ曲げている。こうした人物は正統な文化的伝統を不正に書き換え、殺人の栄光、体罰、女性の抑圧を宗教的に要求されているものとしている。

■改革への抵抗と政治的な抑圧は、多くのムスリム国家から推進力、希望、経済的・社会的進歩に欠かせないエネルギーを奪っている。


ムスリムと西洋の関係が危機的な状況にあるにもかかわらず、ハイレベルグループは、こうした状況下でも避けられない、克服できないものはないと断言する。なぜなら現在の緊張の原因は宗教的・文化的なものではなく政治的なものであり、それは解決できるものだからだ。


推奨される方法
■国際社会は切迫しているイスラエルとパレスチナの紛争について和解を模索すべきである。当面はパレスチナ人とユダヤ人双方の国家に対する願望を正当と認めることを基礎に、双方とも完全な主権を持った独立国家として扱い平和的に共存させることだ。

■このプロセスを支えるため、イスラエル―パレスチナ情勢を公平・客観的に分析する白書の作成を推奨する。白書では両者の主張を取り上げ、過去の和平実現への努力について成功例と失敗例を検証し、この危機から抜け出すために満たさなければならない条件を明白にする。

■ハイレベルグループは中東和平プロセスを再開させるために、すべての関係者が出席する国際会議をできるだけ早期に開催するよう要請する。正当で品位ある解決でなければ、ムスリムと西洋の間に橋を架ける努力は限定的な成果しか得られないだろう。

■過激主義を助長する要因の一つは、ムスリム世界における非暴力的な政治運動の抑圧だ。したがって、ムスリム世界の与党に平和的な政治団体(宗教的か否かに関わらず)が参加できるようにすることは、ムスリム・西洋双方にとって有益なことである。

■ムスリムと西洋の関係に緊張をもたらす問題の多くは、政治と宗教が交差する地点で発生している。なかでも潜在的かつ破壊的なのは、政治と宗教の指導者によって感情を刺激する言葉がしばしば使われることだ。こうした言葉の影響はメディアによって増幅される。したがって指導者や世論を形成する人びとに対し、自らの言動に責任を持ち、文化間の相互理解の促進と、互いの信仰や伝統を尊敬するよう促すことに力を使うよう求める。

■特に危機の中で和解への道筋をつくり、理解の橋を架け、文化的な緊張を取り除くための援助について、国連事務総長の上級代表によるアポイントメントを取り付けることを推奨する。

■「文明の協調」に関する議論は、政府、国際組織、市民社会の代表のために規則的に場を提供し、民間企業の協力を取り付け、行動へのコミットメントを表明するため、国連の後援のもとに行われるべきだ。


ハイレベルグループは、政治的なステップとして教育、メディア、青年、移住という各分野について以下の提案を行う。


メディア
■ジャーナリストのために、異文化を理解するための訓練を行うこと。訓練の目的は、特に宗教と政治の接点における重要な課題に関する理解を深め、バランスのとれた報道を奨励することにある。

■異文化間対話の促進を支援する報道内容の振興。政治的、宗教的、文化的な指導者は危機の際に高まるメディアの関心を利用し、コミュニティー間の緊張を取り除くための記事や声明を発表すべきだ。


教育
■教材に対する批判的な評価。政府や宗教的な指導者は教材が公正・正確で、信仰に関する議論についてバランスを保っているか検討する調査委員会を設立するために協働すべきだ。他の信仰を非難する材料も、それらが歴史上、他の文化や国々に及ぼした貢献について無視することはできない。

■メディアリテラシー:新しい技術を健全な社会に取り込む挑戦には、メディアを活用する市民の能力が重要になる。若い世代が国際的なメディアで目にするものや読むものが信頼できるものかどうか判断できるように、メディアリテラシーについて学校で教える必要がある。


青年
■青年交流の拡大。ハイレベルグループは米国、欧州連合、イスラム諸国会議機構に対し、異文化理解を促進するためのプログラムにおいて青年の交流を拡大するよう求める。

■ウェブサイトを活用した青年ネットワークの発展。宗教指導者や市民活動家は、若者たちが今日直面している課題について建設的な発言をしている宗教指導者と青年を結ぶウェブサイトのネットワークを築くべきだ。


移住
■差別と戦うメディアキャンペーンの振興。ハイレベルグループは、米国や欧州で生活する移民たちに重要な貢献となる研究を拡大するよう求める。こうした研究は、移民たちによる文化的・経済的な貢献や多様な文化を認める利点について社会に広く訴えるメディアキャンペーンの助けになるだろう。


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