09/04/23


緒方貞子氏が講演
―アフガニスタン・パキスタン支援―


4月17日、日本国際問題研究所(JIIA)国際フォーラムが開催された。ゲストはオバマ政権でアフガニスタン・パキスタン担当特別代表を務めるリチャード・ホルブルック氏と、国際協力機構(JICA)理事長の緒方貞子氏。「アフガニスタンとパキスタン―共通の課題に向かって」をテーマに、両国に関して国際社会が共有している課題について語った。講演の要旨は以下の通り。

ホルブルック氏
初めてのパキスタン支援国会合が東京で開催された。これは、パキスタンの重要性を国際社会が認識し始めたことの表れだ。今回の会合で日本が指導的役割を果たしたことは、非常に意義がある。

対テロ戦争の最前線であるアフガニスタンを安定させるためには、隣国パキスタン西部の状況改善が不可欠との認識が高まっている。同地域では越境したタリバンの勢力が増大しており、徐々に周辺へと拡大しつつある。タリバン支配地域にはアルカイダなど国際的なテロ組織も潜伏しており、世界各地で起きている最近のテロ事件にも関与している。パキスタンが核保有国であることを考え合わせれば、その治安改善は国際社会が共有すべき緊急の課題だ。

アフガニスタンは1979年のソ連侵攻まで豊かな農業国だったが、いまや農業部門は壊滅状態だ。米国は年間8億ドル以上を麻薬対策に投入したが、効果は上がっていない。この状況を改善するためにも、米国は農業開発に重点を移す。


緒方貞子氏
私は長年にわたりアフガニスタンに関与してきた。国連難民高等弁務官として、パキスタンにいた600万人のアフガン難民の支援にも努めてきた。

2006年以降、タリバンが勢力を盛り返し、安全保障上の脅威になっている。この治安上の問題は、アフガニスタン・パキスタンの国境地域から発生しており、両国を関連付けて対策を考える米国の新たなイニシアティブを歓迎したい。

アフガニスタンは長い歴史を持つ国であり、中央アジア諸国など周辺国との交流も深い。イランは200万人のアフガン難民を受け入れており、通商上の関係も緊密だ。国際社会は、こうした地域的なアプローチに光を当てるべきである。

日本政府は早くからアフガニスタンの復興事業に取り組み、成果をあげている。これまで道路、病院、学校など社会インフラの整備を一貫して行ってきた。農業試験場もあり、米・小麦栽培の研究を行っている。農業が復興できれば、アヘンの原料になるケシ栽培の予防にもなるだろう。

さらなる支援として、首都カブールの包括的な都市整備・開発が必要だ。昨秋、日本はカブール空港の新ターミナルを完成させた。400万人のカブール市民のための上下水道も整備している。


参考:テロリストの聖域トライバルエリアとパキスタン支援国会合
パキスタン北西部、アフガニスタンとの国境地帯にあるトライバルエリア(連邦直轄部族地域)。長年の伝統から部族が治める地域で、独自の行政権・司法権が与えられている。中央政府の統制が及びにくく、過激派が完全に支配しているエリアもあるという。

住民の大半は敬虔なイスラム教徒で、アルカイダや過激派のメンバーをかくまっているといわれる。そのため、トライバルエリアはテロリストの「聖域」とも呼ばれている。

パキスタン国外からトライバルエリアに侵入したテロリストや過激派は、地元の女性と結婚。子どもに銃の扱いを教え、兵士に育てているという。「聖戦」は、次世代へと受け継がれ始めている。

トライバルエリアは、パキスタン国内にある。そのため、米軍は単独で直接攻撃ができない(ただし、米軍は無人機を使った空爆を繰り返しているとの指摘がある)。米国からの強い要求もあり、パキスタン政府は同地域での過激派掃討作戦を展開。住宅街に潜む過激派に激しい攻撃を続け、昨夏以降、3,000人を超える過激派を殺害したと発表している。

しかし、過激派の壊滅には成功していない。トライバルエリアでの作戦開始後、過激派はパキスタン国内全土で報復テロを展開。警備が厳重な首都イスラマバードでも、テロが頻発している。

加えて、掃討作戦の結果、約50万人がキャンプでの避難生活を余儀なくされた。配給される食糧は少なく、苦しい生活への不満が高まっている。誰のための、何のための戦闘なのか。政府への不満は、過激派への共感に変わる恐れがある。

過激派が勢いづく中、米国のオバマ大統領は「アフガニスタンの将来は、隣国パキスタンの行く末と分かちがたく結びついている」とし、軍事攻撃だけでなく、民生支援に力を入れて国民生活を安定させる方向へと政策を転換した。

こうした一連の動きを背景に、初めてのパキスタン支援国会合が、東京で開催された。約50の国と国際機関が参加し、今後2年間に総額50億ドル超の資金を拠出することで合意。日米両国は、各10億ドルの大型支援を表明した。

パキスタン政府は「貧困、失業、教育問題を解決できなければ、テロとの戦いに勝利することはできない」と訴えている。2000年以降、比較的安定していた同国の経済は、国際的な食料・燃料価格の高騰による外貨準備高の激減、財政赤字の拡大、世界的な金融市場の混乱による外国投資の減少などに見舞われ、08年に深刻な経済危機に陥った。「過激派の温床となる貧困に、経済危機が輪をかけている」とも言われる。

日本はパキスタンに対し、同国を縦断する幹線道路「インダス・ハイウェイ」と「コハット・トンネル」の建設をはじめ、送電網の拡充や灌漑システムの改善、教育・保健分野の制度構築など、幅広い支援を続けてきた。05年に発生した大地震の際は、緊急援助隊の派遣から市街地復興まで一貫した支援を実施。08年には「アフガニスタン・パキスタン国境地域支援のためのイニシアティブ」を取りまとめ、国境地域を含む両国への支援を強化していくことを表明している。

今後、さらに「中央アジア諸国やイランも交えて、広域的視点から発展を目指すアプローチ」(麻生太郎総理)が求められる。アフガニスタン・パキスタンの周辺国と良好な関係を築いている日本には、これまでの成果を生かしながら、武力によらない支援を進めることが期待されている。

過去の記事から
アフガニスタン・カルザイ大統領が講演(06年7月)



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